東京高等裁判所 平成6年(ネ)1393号 判決 1995年3月13日
控訴人・附帯被控訴人(以下単に「控訴人」という。)
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
杉山忠良
被控訴人・附帯控訴人(以下単に「被控訴人」という。)
甲野花子
右訴訟代理人弁護士
坂本修
同
橋本佳子
主文
一 控訴人の控訴に基づき、原判決主文四項を取り消す。
被控訴人の財産分与に関する請求を棄却する。
二 控訴人のその余の控訴を棄却する。
三 本件附帯控訴を棄却する。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その二を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決中、本訴離婚請求に関する部分を除いて、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 右取消にかかる部分の被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 控訴人と被控訴人との間の長女春子(昭和五〇年一〇月八日生)及び二女夏子(昭和五七年一一月二二日生)の親権者をいずれも控訴人と定める。
4 被控訴人は、控訴人に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成四年一〇月一七日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 原判決中、主文四項を取り消す。
3 原判決別紙物件目録一記載の土地を被控訴人に対し分与する。
4 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
第二 本件事案の概要及び当審における当事者の主張
本件事案の概要は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第二項記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三丁裏一一行目の「の方法であって」を「についてであり(原判決主文一項の本訴及び反訴の離婚請求を認容した部分について、当事者双方とも控訴はしていない。)」と改める。
2 原判決五丁裏三行目の「行為」を「悪意の遺棄及び控訴人の財産に対する侵害行為」と改める。
3 原判決六丁表七行目末尾に「被控訴人は、平成元年一二月に別居するに際して、控訴人に無断で二人の子供を連れ出してしまったものである。」を加える。
4 原判決八丁裏二行目と同三行目との間に次のとおり挿入する。
「(4) 被控訴人は、現在、次のとおり総額約二億一八〇〇万円の債務を負担している。
① 有限会社日佳名義で世田谷区代田の土地を購入するために日本抵当証券株式会社から借り入れた債務の残金七〇〇〇万円。
② 被控訴人名義で日本抵当証券株式会社から借り入れた次の債務の残金九七〇〇万円。
イ 控訴人名義で経堂の買い増し土地を購入するために他の金融機関から借り入れた債務の借り換えとして日本抵当証券株式会社から被控訴人が借り入れた四五〇〇万円の残金。
ロ 控訴人の相続税支払いのために他の金融機関から借り入れていた債務の借り換えとして日本抵当証券株式会社から被控訴人が借り入れた一六五〇万円。
ハ 新聞販売店の営業経費、控訴人の両親の医療費及び家族の生活費の支払いのために他の金融機関から借り入れていた債務の借り換えとして日本抵当証券株式会社から被控訴人が借り入れた四〇〇〇万円。
③ 宮坂の建物の建築資金借り入れにより、被控訴人が株式会社富士銀クレジットに負担することとなった債務の残金四八〇〇万円。
④ 新聞販売店の営業上の資金繰りのために、被控訴人が株式会社富士銀行から無担保で借り入れている債務の残金約三〇〇万円。
右のうち、②のロの債務は本来控訴人が負担すべき債務であり、②のハ及び④は、控訴人も共同の責任を負うべき債務として、その二分の一を負担すべきである。」
5 原判決八丁裏八行目の「してしまったものである。」を「して抵当権設定登記もしてしまったものであり、また、勝手に新聞販売店の経営者名義を控訴人から被控訴人へ、被控訴人から有限会社日佳へと変更したものである。」と改め、原判決九丁表四行目と同五行目との間に次のとおり挿入する。
「(4) 世田谷区代田の土地の購入のための日本抵当証券株式会社からの借り入れと経堂の物件に対する抵当権設定は、被控訴人が控訴人に無断でしたものである。
控訴人の相続税の支払と経堂の買い増し土地の購入のための他の金融機関からの借り入れ債務については、控訴人の銀行口座から返済がされており、平成元年三月当時の残額は約二〇〇〇万円位しかなかったから、その借り換えのために日本抵当証券株式会社から約六〇〇〇万円も借り入れる必要はなかった。被控訴人は、控訴人に無断で右借り換えについて控訴人を連帯保証人とし、経堂の物件に抵当権を設定したものである。」
第三 争点に対する判断
一 本件離婚に伴う慰謝料の支払義務の有無及び親権者の指定について
当裁判所は、控訴人が被控訴人に対し慰謝料として三〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成三年一〇月二六日から支払い済みに至るまで年五分の遅延損害金を支払う義務があるが、被控訴人が控訴人に対し慰謝料を支払う義務はないと判断し、また、控訴人と被控訴人との離婚に伴い、両者間の長女春子(昭和五〇年一〇月八日生)及び二女夏子(昭和五七年一一月二二日生)の親権者はいずれも被控訴人と定めるのが相当であると判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第三項の二及び三記載の理由説示(原判決九丁表一一行目から原判決一三丁裏二行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一一丁表三行目及び同一〇行目の「始めころ」を「初めころ」と改める。
2 原判決一三丁表二行目の「仮に、事案の概要三1(二)で主張されている処分行為を」を「被控訴人は、控訴人が被控訴人による財産の無断処分行為と主張している行為(原判決四丁裏八行目から原判決五丁裏二行目までの(1)ないし(5)の財産処分)について、いずれも控訴人の了解を得ていると陳述するが(甲七、被控訴人本人尋問の結果)、昭和六〇年春ころから控訴人は精神分裂病に罹患して入院を繰り返すような状態であり、被控訴人と控訴人との間も不仲となっていたことは前記認定のとおりであるから、控訴人が右財産処分行為の一部はともかくとして全部を理解したうえで承諾していたとは認め難く、右の陳述はにわかに採用できない。しかしながら、仮に、右の財産処分行為のいずれかを」と改め、同九行目の「以上によれば、」の次に「被控訴人の責めに帰すべき事由により婚姻が破綻したことを理由とする」を加える。
3 原判決一三丁裏一行目の「養育されており」の次に「、同女らも被控訴人と共に暮らすことを望んでいること」を加える。
二 財産分与請求について
1 控訴人及び被控訴人の現有財産、双方の婚姻生活中の生活費や控訴人の父母の医療費等の負担の状況、控訴人及び被控訴人の借金と不動産の担保提供並びにその借金返済の状況、株式及びその余の財産の処分の状況についての当裁判所の認定判断は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第三項の四の1の理由説示(原判決一三丁裏四行目から原判決一九丁裏八行目まで)のとおりであるから、これをここに引用する。
(一) 原判決一三丁裏五行目の「鑑定)」の次に「並びに弁論の全趣旨」を加える。
(二) 原判決一七丁表五行目の「有限会社日佳が行っていくことになる。」を「債務者である有限会社日佳の営業収益からしていくことになっていたが、その返済が滞っており、残債務額は、現在でも約七〇〇〇万円となっている。」と、原判決一八丁表八行目及び同九行目を「右の被控訴人を債務者とする一億円の借り入れの残債務は原審口頭弁論終結時以降もほとんど減少しておらず、現在でも残債務額は、約九七〇〇万円である。その返済は、日本抵当証券株式会社に対する関係では債務者である被控訴人が行っていくことになるが、少なくとも、控訴人の父からの相続による相続税を支払うために、被控訴人が株式会社富士銀行から借り入れた一六五〇万円の返済に充てるための借り換え分は、控訴人が負担すべきものであり、その余の債務分は経堂の買い増し土地及び有限会社日佳の新聞販売店の営業を引き継ぐ者が実質的に負担せざるを得ない筋合のものである。」とそれぞれ改め、同丁裏七行目の末尾に「なお、宮坂の建物についても、同一内容の抵当権が設定され、昭和六三年一一月一八日付けをもってその旨の登記を経由した。」を加え、同八行目及び同九行目を「右の被控訴人を債務者とする五〇〇〇万円の借り入れの債務も原審口頭弁論終結時以降ほとんど減少しておらず、現在でも残債務額は約四八〇〇万円ある。その返済は、宮坂の建物の所有名義人となる者が負担せざるを得ない筋合のものである。」と改め、同九行目と同一〇行目との間に「(4) 被控訴人は、有限会社日佳の営業上の資金繰りのため株式会社富士銀行から必要の都度無担保融資を受けていたところ、その残債務額が二〇〇万円ないし三〇〇万円である。」を挿入する。
2 以上によれば、控訴人と被控訴人の婚姻生活の結果形成された夫婦共有財産とみるのが相当な現存する積極財産は、経堂の買い増し土地及び宮坂の建物並びに新聞販売店の営業権を実質的価値とする有限会社日佳の出資持分であり、宮坂の土地及び経堂の物件は控訴人の特有財産であり、被控訴人がその維持に積極的に寄与し、その散逸を防止したなどの特段の事情がない限り、財産分与の対象とすべきものではない。しかるに、本件証拠によっても右の特段の事情を認めることはできない。宮坂の土地の上にある宮坂の建物が被控訴人の所有名義となっており、有限会社日佳の新聞販売店の店舗として利用されており、その収益が被控訴人や子供の生活費の源となっていても、そのことから被控訴人が宮坂の土地を財産分与として譲渡を受けるのを相当とする特段の事情に当たるものとはいえない。
ところで、経堂の買い増し土地及び宮坂の建物並びに控訴人の特有財産である宮坂の土地及び経堂の物件には、被控訴人または被控訴人が経営を担当してきた有限会社日佳を債務者とする抵当権や根抵当権が設定されており、その被担保債務の返済が順調になされておらず、その債務額等に徴して担保権の実行を受ける可能性が高いことも窺え、夫婦共有財産の実質的な総価格は今後の債務の返済と絡み極めて流動的なものであると言わざるを得ない。また、前記認定事実によれば、その債務の大部分が被控訴人の借り受け行為によって発生したものであり、被控訴人に特定の不動産を財産分与した場合、被控訴人がその余の不動産の被担保債務の返済を怠って、その実質的価値を消滅させてしまう可能性もないではなく、各財産につきその負担に帰すべき債務の額を確定することはできない。右のような事情があるときには、被控訴人と控訴人の離婚に伴って、直ちに財産分与を決定するのは、適切とはいえず、本件財産分与については、今後の夫婦共有財産の実質的価格及び控訴人の特有財産に付けられている担保権の消長を見たうえで、離婚後一定期間内は許される家庭裁判所の審判等に委ねて処理するのが相当である。したがって、本件の財産分与請求は、現時点ではこれを棄却するのが相当であるというべきである。
三 以上によれば、被控訴人の親権者指定申立、慰謝料三〇〇万円及びこれに対する平成三年一〇月二六日から支払い済みに至るまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払請求は理由があるが、被控訴人の財産分与請求及び控訴人の慰謝料請求は理由がない。
よって、控訴人の控訴に基づき、被控訴人の財産分与請求を認容した原判決を、右の範囲で変更し、被控訴人の附帯控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官加茂紀久男 裁判官鬼頭季郎 裁判官柴田寛之)